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東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)33号 判決

原告 博多南郵便局労働組合

右代表者組合長 今永公男

右訴訟代理人弁護士 加藤康夫

同 石川礼子

被告 国営企業労働委員会 (変更前の名称 公共企業体等労働委員会)

右代表者会長 堀秀夫

右指定代理人 成田孝士

〈ほか五名〉

参加人 国

右代表者法務大臣 林田悠紀夫

右訴訟代理人弁護士 藤堂裕

右指定代理人 藤牧幹也

〈ほか五名〉

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告を申立人とし郵政大臣及び博多南郵便局長を被申立人とする公労委昭和五六年(不)第一号事件につき昭和五八年一二月二二日付けでなした命令(命令第四五号、以下「本件命令」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、博多南郵便局に勤務する郵政職員四名及び職員でない者一名により、昭和五六年二月二日結成された労働組合である。

2  本件命令の存在

原告は、昭和五六年二月二七日、被告に対し、郵政大臣及び博多南郵便局長を被申立人として不当労働行為救済申立て(以下「本件救済申立て」という。)をしたが、被告は、同五八年一二月二日付けで別紙命令書のとおり本件命令を発した。

3  本件命令の違法

本件命令は、次に述べるとおり、その事実認定、判断において誤っており、違法である。

(一) 郵政大臣の団体交渉拒否関係

本件命令は、原告が昭和五六年二月三日付けで行った郵政大臣に対する交渉委員名簿の提出要求に対し、同大臣が名簿を提出しなかったこと及び原告が同月一六日付けで行った同大臣に対する特別昇給制度に関する団体交渉申入れに対し同大臣が団体交渉を開催しなかったことについて、同大臣には団体交渉を拒否する行為があったとは認め難いと判断したが、右判断は誤っているうえ、本件命令には事実認定及び判断に脱漏がある。

すなわち、本件命令は、「話合い」が団体交渉に当たらないとしながら、郵政省(同大臣)は原告との意思疎通の進展を図るため原告に話合いの提案をし、その返答を待っていたと認定し、これをもって団体交渉拒否の行為に当たらないと判断するのである。しかし、公共企業体等労働関係法(昭和六一年一二月四日法律第九三号による改正前のもの。以下「公労法」という。)九条には、団体交渉は公共企業体等を代表する交渉委員と組合を代表する交渉委員によって行われることが、一〇条には、公共企業体等と組合の交渉委員はそれぞれがみずから指名し、その名簿を相手方に提示しなければならないことが、一一条には、交渉委員の任期その他団体交渉の手続に関し必要な事項は団体交渉で定めることがそれぞれ規定されているのであるから、団体交渉が公労法の右規定に則って行われるためには、まず交渉委員の指名が必要不可欠であり、交渉委員が指名された後団体交渉手続が団体交渉によって折衝されるのであって、交渉委員指名の前段階として話合いをしなければならないいわれはない。原告は、博多南郵便局の職員である高田裕和、長野徹夫及び渡辺数利等を組合員としているうえ、昭和五六年二月一三日博多南郵便局長に対し組合長今永公男を除き組合員はすべて同局職員である旨の文書を郵送しているのであるから、同大臣には原告が同大臣に対応する団体交渉の当事者であることは明らかであった。それにもかかわらず、同大臣が原告の団体交渉申入れに対し話合いの提案をするのみで交渉委員の指名すらせず、団体交渉を行わなかったことは、話合いの姿勢をもって意図的に団体交渉を拒否したと断ぜざるを得ないのであり、労働組合法(以下「労組法」という。)七条二号に違反する不当労働行為である。

また、同大臣は、特別昇給制度の実施に関して、原告と同じように郵政労働者をもって組織されている全逓信労働組合(以下「全逓」という。)及び全日本郵政労働組合(以下「全郵政」という。)との間では交渉委員を指名して団体交渉を行っているにもかかわらず、原告との間では交渉委員名簿の提出及び団体交渉を拒否している。これは原告を全逓及び全郵政と差別するもので、原告に対する支配介入行為であり、労組法七条三号に違反する不当労働行為である。しかるに、本件命令は、同大臣と全逓等との団体交渉の事実を認定せず、かつ、右支配介入の点の判断を脱漏している。

(二) 博多南郵便局長の団体交渉拒否関係

(1) 本件命令は、博多南郵便局長は原告と団体交渉をする権限を有しないから、同局長が原告の申入れにかかる服務表の変更に関する団体交渉に応じなかったこと及び交渉委員名簿を提出しなかったことはいずれも不当労働行為に当たらないと判断したが、誤りである。

すなわち、郵政省設置法、政・省令及び職務規程は、行政法上の権限を規定したものであるのに対し、使用者の団体交渉応諾義務は憲法二八条に基づいた労働法上の義務であるところ、労働組合法及び公労法は団体交渉応諾義務を課せられている「使用者」の範囲を限定していないので、右「使用者」とは団体交渉対象事項を実質的に解決できる立場にある者をいうと解さざるを得ない。服務表の変更については、郵政事業職員勤務時間、休憩、休日及び休暇規程(昭和三五年公達第四九号。以下「勤務時間規程」という。)により郵政大臣から郵便局長に権限が委任されているので、郵便局長は服務表の変更を実質的に解決できる立場にある。そうすると、博多南郵便局長は、原告の申し入れた服務表の変更については団体交渉における使用者であるから当事者として団体交渉応諾義務を負い、公労法一〇条に基づき交渉委員を指名し、もってその交渉委員をして原告と団体交渉を行わせる権限を有し義務を負うこととなる。しかるに、同局長は、諸般の事情から原告が対応する労使関係の当事者であることを知っていたにもかかわらず、原告が服務表の変更について団体交渉を申し入れたのに対し交渉委員を指名せず、団体交渉を行わなかった。これは団体交渉を拒否するものにほかならず、労組法七条二号に違反する不当労働行為である。

また、同局長は、服務表の変更に関し、同局の職員により組織されている全逓西南支部及び全郵政博多南郵便局支部とは団体交渉を行っているのに原告とは行わない。これは、原告を全逓等と差別するもので、原告に対する支配介入行為であり、労組法七条三号に違反する不当労働行為である。

なお、本件命令は、博多南郵便局長は、原告に対し、申入れについては上局で検討しており、その指示を待っている旨伝えるとともに、当該申入れの件につき九州郵政局を通じて郵政省に申達しており、同省からは原告に対し、労使関係の対応する当事者であるか否かの問題につき話し合いたい旨回答がなされているから、不当労働行為として非難される点は見出し難いと説示している。しかし、右説示は、仮に本件命令がいうように郵便局長に団体交渉応諾義務がないとすれば全くの蛇足であるばかりか、前述のとおり博多南郵便局長は原告が同局長に対応する団体交渉の当事者であることを当然に知っていたと認められるし、また、「話合い」が団体交渉でないことも明らかであるから、同局長の行為は、団体交渉拒否にほかならず、かつ、原告に対する支配介入行為に該当する。

(2) また、本件命令は、博多南郵便局長が原告の申入れにかかる組合事務室及び組合掲示板の使用許可に関する団体交渉を拒否したことは不当労働行為ではないと判断しているが、誤りである。

すなわち、組合活動は主として労働者の労働条件の維持向上を図るために行われるものであるから、その活動に必要不可欠な組合活動のための便宜供与をどうするかは、まさに「労働条件に関する事項」として公労法八条に規定された団体交渉事項というべきである。組合事務室及び組合掲示板は組合活動をするうえで必要不可欠なものであるから、その使用の許可に関する事項は団体交渉事項である。しかるに、博多南郵便局長は、原告が当該事項について団体交渉を申し入れたのに対し、原告が対応する労使関係の当事者であることを知っていたにもかかわらず、交渉委員を指名せず、団体交渉を行わなかった。これは、団体交渉を拒否するものにほかならず、労組法七条二号に違反する不当労働行為である。

(三) 博多南郵便局長の組合事務室の使用及び電話の設置許可拒否関係

本件命令は、博多南郵便局長が原告に組合事務室の使用及び電話の設置を許可しなかったことをもっていずれも組合間の差別をした不当労働行為ということはできないと判断しているが、誤りである。

すなわち、博多南郵便局長は、同局において法人格を有せず、独自の規約すらも持たない全逓西南支部及び全郵政博多南郵便局支部に対しても局舎の一部を組合事務室として使用を許可している。また、全郵政曽根支部は組合員七名にすぎないのに組合事務室の使用が許可されている。しかるに、同局長は、原告が公共企業体等労働委員会規則(昭和六二年三月二四日同規則一条により国営企業労働委員会規則と改称する以前のもの。以下「公労委規則」という。)二二条に基づく組合資格証明書の交付を受けた労働組合であり、かつ、全郵政曽根支部と略同数の組合員を有するにもかかわらず、原告に組合事務室の使用を許可せず、これを前提に電話の設置を認めない。これは明らかに原告を全逓等他組合と差別するもので、原告に対する支配介入行為であり、労組法七条三号に違反する不当労働行為である。

(四) 博多南郵便局長の組合掲示板の使用許可拒否関係

本件命令は、博多南郵便局長が原告に組合掲示板の使用を許可しなかったことをもって組合間の差別をした不当労働行為ということはできないと判断しているが、誤りである。

すなわち、郵便局舎の庁舎管理権は郵便局長に委任されており、博多南郵便局長は全逓西南支部及び全郵政博多南郵便局支部に対して組合掲示板の使用を許可しているところ、原告に対して右許可をしない。これは組合間で差別を行うもので、原告に対する支配介入行為であり、労組法七条三号に違反する不当労働行為である。

4  本件命令の「第2 認定した事実」に対する認否は次のとおりである。

(一) 1の(1)の事実は認める。但し、萩原課長は高田執行委員らに対し、「一三日は、私ども一寸時間がありませんね。他に用事がありますのでね。」「窓口は高田さんですね。うちは、私が担当ですもんね。」と発言した。

同(2)の事実は認める。

同(3)の事実は知らない。

同(4)の事実は認める。但し、萩原課長は、「明日の交渉は一寸無理のようです。」「出会いの場としては、私どもの方としましても、窓口を通じてお話することはあると思っています。」「まだ、全逓、全郵政のように交渉ルールがありませんので、このルールでやるというようなことは、お宅も嫌でしょうから、これからの局の方でも、いろいろ検討していくところです。」と述べている。

同(5)の事実は認める。但し、博南郵労第一一号には、さらに次の記載内容がある。すなわち、「2、組合規約、組合員数を知らせるよう求めているが、団体交渉の席上合理的理由のある場合には明らかにする。」「4、貴職が当組合申入れの団体交渉について、交渉日時に関して不都合というのであれば、いくらでも相談しうる。しかし貴職の前記回答における交渉日時以外に関する主張には全く合理性がないので、調整する余地はない。」「6、貴職が二月一七日までに貴職の交渉員名簿を提出しなかったり、あるいは交渉日時の指定をしない場合は、団体交渉拒否との認識に立って然るべき措置をとることを付言しておく。」

同(6)の事実は認める。但し、博南郵労第一二号には、さらに次の記載がある。すなわち、「貴職は他労働組合との間において『特別昇給制度』に関する交渉等を重ねてきているが、この件に関し公労委は、今年一月一七日郵政省と全逓及び全郵政に対し『仲裁裁定書』を交付した。こうしたなかで、貴職は、今年一月一日付で『特別昇給制度』を実施する模様であるが、当組合は、本件に関し何ら関与していないところである。よって下記のとおり団体交渉を申入れる。」

同(7)の事実中、認定のとおり、二月二三日、高田執行委員と萩原課長が原告の要求について話し合ったことは認めるが、同課長の発言内容はまわりくどく、認定のような趣旨を簡明に述べたものではないうえ、「ですけど、おたくの方からの申入れの件の中でですね。私共の方で事実上の話合いとして、ま、あの、していくのがふさわしいというものもあるとは思っておりますからですね。……私共の方でも検討させていただきたいと思いますね。別途窓口ででも調整をしながらですね、取扱っていきたいというふうに考えておりますがね。」等とも述べたのである。

同(8)の事実中、二月二五日、郵政省人事局管理課が原告に対し本件命令で認定されたとおりの文書を送ったこと、萩原課長が原告の組合員であり博多南郵便局の職員である長野徹夫及び渡辺数利に右文書を手交しようとしたが断られたこと、翌二六日、右文書が野田主事から高田執行委員に手交され、その際高田執行委員が「はい、いいです。」と発言したことは認める。但し、右発言は文書の内容を了解したという趣旨ではなく、文書を受領することに同意する趣旨であった。また、「団体交渉委員の通知」等に関して郵政大臣が何の対応もしなかったことは認める。しかし、右に関して原告が何の対応もしなかったとの点は否認する。原告は、郵政省人事局管理課の二月二五日付け文書は、従前の経緯に照らし団体交渉を拒否したものにほかならないと判断し、同月二七日本件救済申立てを行ったのである。

同(9)の事実中、博多南郵便局長が全逓及び全郵政との間で服務表の変更に関する団体交渉を行っていること、同局長が原告とは服務表の変更に関する団体交渉を行っておらず、また、原告が要求する同局長側の交渉委員名簿を提出していないことは認める。同局長が、全逓及び全郵政との関係では郵政大臣の委任を受けた九州郵政局長から交渉委員の指名を受けていること、原告との関係では同大臣又は九州郵政局長から交渉委員としての指名その他交渉権限の委任を受けていないことは知らない。しかし、服務表の作成・変更は各局所の実情と関連し、郵便局長の権限とされているのであるから、郵便局長がその範囲で労働関係につき現実的かつ具体的な支配力を有しており、郵政大臣や九州郵政局長から形式上交渉委員に指名されていると否とに拘らず団交応諾の義務を負っているのである。さらに、博多南局長は、服務表の作成変更の権限を付与されているのであるからその限度で交渉権限の委任がなされたと認定されるべきである。また、仮に明文上交渉権限の委任がなされていなくても、同局長は服務表の作成変更権限が付与されたことにより、それに伴う労働条件について団交応諾義務を負わされたものとすべきである。

同(10)及び(11)の事実は認める。

(二) 2の事実は、甲木課長補佐の推測部分を除きその余の点は認める。甲木課長補佐は、博多南郵便局長からの報告その他諸般の状況から原告の組織の実態を正確に把握していたものである。

(三) 3の(1)のイの事実中、郵政省の方針が認定のとおりであることは認める。具体的には認定の基準により決定していたことは知らない。

同(1)のロの事実は認める。但し、正確には、「……庁舎管理者が組合に使用許可を認める掲示場所並びにその箇所数及び大きさの決定にあたっては、庁舎施設の規模や組合員数のほか、掲示場所のスペース及びその位置関係が人目に触れ易い場所であるかどうか等の諸条件をも総合的に勘案したうえで許可するようじゅうぶん配慮している。したがって、庁舎管理者が掲示場所を使用許可する際には、例えば箇所数について一律に、一局所一箇所というような方針ではなく、又掲示場所等についての組合の意見を聞くことを全く否定するような態度もとってはおらず、上記の諸条件を総合的に勘案して対処している。」ということとなるのである。

同(2)のイの事実中、全福郵労に組合事務室の使用が許可されていることは認める。その余は知らない。

同(2)のロの事実中、全福郵労、干隈郵便局における全福郵労の分会及び福岡中央郵便局労働者労働組合(以下「福中労」という。)に組合用掲示板の使用が許可されていること、全福郵労の右分会及び福中労の各組合員数は認める。その余は知らない。

5  よって、原告は請求の趣旨記載のとおり被告の発した本件命令の取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否及び反論

1  請求原因1及び2の事実はいずれも認める。

2  同3(本件命令の違法)に対する被告の認否及び反論

本件命令の理由は、別紙命令書の理由欄記載のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはないが、請求原因3の認否及び反論は次のとおりである。

(一) (一)(郵政大臣の団体交渉拒否関係)について

本件命令が原告主張のとおり判断していること、公労法には原告主張のとおり規定されていること、原告は博多南郵便局の職員である高田裕和、長野徹夫及び渡辺数利等を組合員としているうえ、昭和五六年二月一三日博多南郵便局長に対し組合長今永公男を除き組合員はすべて同局職員である旨の文書を郵送していること、原告が郵政大臣に対応する団体交渉の当事者であること、同大臣は原告の団体交渉申入れに対し話合いの提案をしたが、交渉委員の指名をせず、団体交渉を行わなかったこと、同大臣は特別昇給の実施に関して、全逓及び全郵政との間では交渉委員を指名して団体交渉を行っていることは認める。その余の主張は争う。

原告は、郵政大臣に対応する団体交渉の当事者であるが、たとえ郵政省側が原告の団体交渉当事者適格の有無を判断するに必要な限度でその組織実態(原告に博多南郵便局職員が加入していたか否か等)を知っていたとしても、初めて団体交渉に入るに当たっては事前の折衝等があり得るところである。しかも本件の場合、原告は、その結成後、間もなく団体交渉を申し入れたものであった。このため、右申入れを受けた郵政大臣は、相当期間内の昭和五六年二月二六日に原告に対し話合いの提案をしたのであって、これは原告との意思疎通の進展を図り団体交渉の開催へ向けての一つの段階として理由があるというべきであるし、同大臣側が返答を待っていたところ、原告は、右提案を一顧だにせず、翌日直ちに本件救済申立てを行ったのである。以上のような本件救済申立てに至るまでの労使両当事者の対応の経過を総合的に考慮すると、本件救済申立ての時点において同大臣には未だ団体交渉を拒否する行為があったとは認め難く、かえって原告の右対応には、本件命令書に明記している部分を含め全体として性急に過ぎるものがあったものといわなければならない。

なお、原告は、本件命令は同大臣の原告に対する支配介入の点の認定、判断を脱漏していると主張するが、本件命令書には「被申立人大臣には、未だ団体交渉を拒否する行為があったとは認めがたい。」と記載(一一及び一二頁)しており、これにより同大臣には労働組合法七条二号のほか同三号に該当する行為のなかったことを認定、判断していることは明らかであるから、原告の右論難は失当である。

(二) (二)(博多南郵便局長の団体交渉拒否関係)について

(1) (1)について

本件命令が原告主張のとおり判断していること、郵便局長は勤務時間規程により郵政大臣から服務表の変更に関する権限が委任されているので、右変更を実質的に解決できる立場にあること、本件命令は原告主張のとおり説示していることは認める。その余の主張は争う。

公労法における使用者側の「団体交渉の当事者」は公共企業体等であり、郵政事業(郵政省)にあっては、その代表者である郵政大臣のみであって、郵便局長は「団体交渉の当事者」ではない。郵便局長は郵政大臣から交渉委員としての指名その他交渉権限の委任を受けて初めて団体交渉を行うことができるにすぎないのである。また、郵便局長は、同大臣から一般的に服務表の変更に関する権限の委任を受けているが、その必然的結果として服務表の変更についての交渉権限(団体交渉応諾義務)をも有すると解すべき根拠はない。博多南郵便局長は、原告による服務表の変更にかかる団体交渉の申入れに対し、当然には当該団体交渉を行う権限を有せず、また、同大臣から原告と当該事項について団体交渉を行う権限の委任を受けていなかったのであるから、同局長がこの申入れに応ずることがなくても不当労働行為は成立しない。

さらに、被告としては、郵便局長に団体交渉応諾義務がないとしても、服務表の変更が団体交渉事項である以上、郵政省全体としての対応に不当労働行為と評価される行為がなかったか否かについても判断する必要があるところ、右団体交渉の申入れ直後に同局長のほかその上級機関において原告の申入れを検討し、話合いの提案等をしたことからすると、郵政省側は原告の団体交渉申入れに対してしかるべき対応をしており、不当労働行為として非難される点は見出し難い。

(2) (2)について

本件命令が原告主張のとおり判断していること、原告が博多南郵便局長に対し組合活動に関し団体交渉を申し入れたことは認める。その余の主張は争う。

原告は、組合事務室及び組合用掲示板(以下「組合事務室等」という。)の使用許可の問題は「労働条件に関する事項」として公労法八条に規定された団体交渉事項というべきであるなどと主張するが、庁舎管理権に基づく組合事務室等の使用許可のごときものは、「労働条件に関する事項」とはいえず、公労法八条に規定する団体交渉事項には当たらないというべきである。したがって、博多南郵便局長が原告の申入れにかかる当該事項についての団体交渉を行うことがなくても不当労働行為は成立しない。

(三) (三)(博多南郵便局長の組合事務室使用許可及び電話の設置許可拒否関係)について

本件命令が原告主張のとおり判断していることは認める。その余の主張は争う。

労働組合に対する組合事務室の使用許可等の要否の判断に当たり、労働組合の規模(組合員数)を一つの基準とすることは合理的理由があるが、当該組合が法人格を有しているか否かは基準とすべきものではない。また、原告のような五名程度の組合員数しか有しない他の労働組合に組合事務室の使用許可がされた例はない。したがって、博多南郵便局長が同局において原告に組合事務室の使用を許可せず、また右使用許可を前提とする電話の設置許可をしなかったことをもって組合間の差別をするものということはできない。

(四) (四)(博多南郵便局長の組合掲示板の使用許可許否関係)について

本件命令が原告主張のとおり判断していることは認める。その余の主張は争う。

たとえ当該使用許可がなされるにしても、通常それまでには、掲示板設置の必要性の検討、設置場所の選定、設置すべき掲示板の大きさ、形状等の決定、費用の確保その他諸般の事務処理のために相当の日数を要するものであり、しかも、原告が昭和五六年二月三日博多南郵便局長に対し掲示板についての要求書を提出してから同月二七日本件救済申立てに至るまでの間、同局長は、原告に対して状況説明をする等の対応をしているうえ、また、本件救済申立ての時点で、掲示板使用につき不許可という意思表示を何ら行っていないのである。このような段階において同局長が未だ右使用許可をしていないからといって、組合間の差別をしたものとはいえない。

三  請求原因に対する参加人の認否及び反論

1  請求原因1の事実は認める。ただし、昭和五六年二月当時、原告の組合構成員数及びその氏名等正確な内容は、参加人の機関である郵政大臣及び博多南郵便局長にとって不明であった。

2  同2の事実は認める。

3  同3に対する参加人の認否及び反論

原告の本件救済申立ては性急に過ぎ、郵政大臣及び博多南郵便局長の対応は、次のとおり、いかなる意味でも不当労働行為の責を負うべき筋合いはない。

(一) (一)(郵政大臣の団体交渉拒否関係)について

原告が昭和五六年二月一三日付け文書により、博多南郵便局長宛に、組合長今永公男を除き組合員はすべて同局職員である旨の抽象的な通知をしてきたこと、郵政大臣が全逓及び全郵政との間で交渉委員を指名し、団体交渉を行っていることは認める。

同大臣が団体交渉を拒否した事実はない。すなわち、同大臣は、新しく結成された博多南郵便局労働組合と称する組織が労使関係上郵政省と対応する労働組合かどうかにつき検討を加えたが、昭和五六年二月当時は原告に博多南郵便局に勤務する職員が加入していることの推測はできても明確に認識することは困難な状況にあった。そこで、郵政省は、原告に対し右検討の一環として事実認識を含めた話合いを求め、その返答を待っていたのであるが、原告からは何らの返答もなく、団体交渉へと進展する機会を得られなかったのである。

また、交渉委員の指名と交渉委員名簿の提出(交換)は団体交渉を行うための手続きの一環ではあるが、これは新たに団体交渉の申入れを行った労働組合が前記の対応関係にある団体交渉当事者適格を有することが確認できることを前提としてなされることで足りるものである。しかるに本件の場合、右のとおりの経過にあったので、同名簿提出の問題が云々される段階にまで至っていなかったのである。

(二) (二)(博多南郵便局長の団体交渉拒否関係について)について

(1) (1)について

服務表の変更については郵政大臣から郵便局長にその権限が委任されていることは認める。同局長がこれにつき当然に団体交渉権限を有することは否認する。

郵便局長は、郵政大臣から一般的に服務表の作成・変更につき権限の委任を受けているが、このことだけで同局長が服務表の変更につき団体交渉を行う権限やそれに応ずる義務を有するものではない。郵政省内における省側の団体交渉権限は唯一同大臣に帰属し、各機関の長は、同大臣から委任を受けた限度において関係の各労働組合と団体交渉を行うことができるにすぎないのである。これは全逓及び全郵政との関係でも一貫している法的建前である。博多南郵便局長は、昭和五六年二月当時、同大臣から交渉委員として原告との間で服務表の作成・変更について団体交渉を行う権限の委任を受けていなかったのであるから、原告の申入れにかかる服務表の変更について団体交渉に応じなかったことを不当労働行為であるということはできないし、交渉委員名簿を提出しなかったことも同様である。

なお、郵政大臣は、原告が労使関係の当事者であることを確認することができた後、原告との間における服務表の作成・変更についての団体交渉に関して、博多南郵便局長に対し必要な措置を行い、現に服務表の作成・変更について原告と団体交渉を行っている。この事実からみても郵政省側が原告との団体交渉を拒否する意図を有していなかったことは明らかである。

(2) (2)について

組合事務室及び組合掲示板の使用に関する事項は団体交渉の対象とすることのできない事項である。すなわち、公労法八条には、管理運営事項は団体交渉の対象とすることができないことが規定されているが、郵便局庁舎等における組合事務室及び組合掲示板の使用許可は国有財産である行政財産の使用関係に関する問題であって参加人の機関である郵政省の専権的決定事項であり、管理運営事項に属するものである。

(三) (三)及び(四)(博多南郵便局長の組合事務室等の使用許可の拒否)につて

全郵政曽根郵便局支部に組合事務室の使用が認められていたとの点は否認する。原告が公労委規則二二条に基づく組合資格証明書の交付を受けた労働組合であることは認める。ただし、右証明書の点については、昭和後六年当時は参加人の関知するところではなかった。

原告に対して組合事務室等の使用等の許可をしていないことが不当労働行為に当たらないことについては、本件命令書に判断するとおりである。

また、労働組合の郵便局庁舎の使用については、郵政省庁舎管理規程等に基づき、庁舎管理権を有する郵便局長に対し組合から組合事務室等の使用許可願を提出し、郵便局長が業務運行上支障がなく、かつ、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認めて許可した場合に限り庁舎等の一部をその目的外に使用することができるのであるが、本件救済申立ての時点では、原告は、これらの使用許可願を提出していないのである。

なお、組合掲示板については、原告が労使関係の当事者であることを確認することができた後、原告からの掲示許可等に基づき、昭和五八年一〇月二四日、原告に掲示許可をしているものであり、また、組合事務室については、昭和五九年二月三日に原告から組合事務室許可願が提出された際、局舎事情からも許可することは困難である旨説明しているところである。

4  本件命令の「第2 認定した事実」に対する認否は次のとおりである。

(一) 1の(1)の事実のうち、高田裕和が原告の執行委員であったこと及び長野徹夫が原告の組合員であったことは知らない。その余は認める。

同(2)ないし(6)の事実はいずれも認める。

同(7)の事実中、萩原課長の発言要旨部分中「団体交渉のルールがないので」との部分及び「組合事務室等の使用許可の問題に関しては、団体交渉のあり方等の基本的な問題とともに検討中であり」との部分については否認し、その余は認める。

なお、昭和五六年二月二三日、萩原課長は、原告からの団体交渉申入れ等について回答し、その後、高田裕和の「組合事務室と掲示板はどうなりましたか。」との質問に対して、単に検討中である旨の返答をしたものであって、「団体交渉のあり方等の基本的な問題とともに検討中」である旨の発言はしていない。

同(8)の事実中、長野徹夫及び渡辺数利が原告の組合員であったことは知らない。その余は認める。

同(9)ないし(11)の事実はいずれも認める。

(二) 2の事実中、原告の組合員数が五名であったことは知らない。その余は認める。ただし、全逓及び全郵政の組合員数については、正確な人数は不明であるが、ほぼ認定事実記載の人数であったことは争わない。

(三) 3の(1)の事実は認める。ただし、「局舎事情のほか、労働組合の規模及び組織状況、組合間の均衡等」は、組合事務室の使用許可についての制度的な基準というような明確なものではなく、運用上の考慮要素としているにすぎないものである。

同(2)の事実中、全福岡郵政労働組合、九州郵政研修所労働組合及び福岡中央郵便労働者労働組合の分会組織については知らない。その余は認める。

なお、福岡中央郵便労働者労働組合については、昭和五九年六月二八日に解散通知があり、掲示許可を取り消している。

四  証拠《省略》

理由

一  請求原因1(原告)及び2(本件命令の存在)の事実は当事者間に争いがない。

二  原告結成から本件救済申立てに至るまでの経過

本件命令2の1の事実のうち、当事者間に争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和五六年二月二日、全逓・総評の労働戦線の右翼的再編成反対等を目的として全逓西南支部博多南郵便局に勤務する職員である高田裕和及び長野徹夫外二名並びに右職員ではない今永公男の合計五名により結成され、今永公男が組合長(以下「今永組合長」という。)に、高田裕和が執行委員(以下「高田執行委員」という。)にそれぞれ就任した。

なお、原告は、同月一〇日、博多南郵便局長に対し、公労委に提出するため、博多南郵便局は原告に経理上の援助を一切与えていない旨の証明願を提出して同日その証明を受け、これを公労委に提出して、公労委から同年三月四日、公労委規則二二条に基づく組合資格証明書の交付を受けた。

2  高田執行委員は、同年二月三日、所用の今永組合長に代わり、長野徹夫同席のうえ、博多南郵便局の労務担当責任者である庶務会計課長萩原成通(以下「萩原課長」という。)と面会し、同課長に対し、「私たちは、博多南郵便局労働組合を結成した。」と述べて、以下の博多南郵便局長宛文書四通を手交し、原告の結成を通知するとともに団体交渉の申入れ等を行った。なお、その際、萩原課長は、高田執行委員が原告の窓口担当であることを確認するとともに同課長が博多南郵便局長の窓口担当となることを伝えた。

ア  「組合結成通知書」(博南郵労第三号、原告の結成日、名称、所在地及び代表者を記載したもの)

イ  「団体交渉申入書」(博南郵労第八号。交渉事項として速達配達サービス適性化に伴う服務表の変更と博多南郵便局における原告の組合活動とを掲げ、交渉日時を昭和五六年二月一三日一三時からとしたもの)

ウ  「団体交渉委員の通知」と題する書面(博南郵労第六号。原告の交渉委員として今永組合長(代表)、高田執行委員(窓口担当)及び長野徹夫を指名したことを記載するとともに、博多南郵便局長の交渉委員を速やかに指名のうえ、その名簿の原告宛提出を要求したもの)

エ  「要求書」(博南郵労第七号。博多南郵便局の増改築後の新局舎に原告の組合事務室及び組合掲示板の設置及び使用許可並びに組合事務室設置の際の電話の設置許可を要求したもの)

なお、原告が博多南郵便局長に対し服務表の変更について団体交渉を申し入れたのは、当時、郵政省では、速達郵便配達地域の拡大や配達時間の変更等を内容とする「速達配達サービスの適性化」を計画し、博多南郵便局でもその実施のため近々服務表の変更が予定されたいたが、服務表の変更については勤務時間規程により郵政大臣から郵便局長に権限が委任されていたことから、博多南郵便局長は同局の服務表の変更に関する権限を有しており、これに基づいて右改正案を検討している状況にあったことから、右案に原告の要求を反映させるためであった。また、原告が団体交渉を申し入れた組合活動の内容として考えていたものは、時間内組合活動や組合休暇等の問題のほか別途要求にかかる組合事務室や組合掲示板の設置・使用の問題をも含めたものであったが、原告が具体的にその内容を明らかにして博多南郵便局長に伝えたことはなかった。さらに、組合事務室の使用については、博多南郵便局は、福岡市の一部及び同市周辺のベッドタウンを担当しているところ、右地域は発展が早く、取扱事務量や職員数が増加していたことから、庁舎が手狭となり、当時増改築中であったが、原告は、右増改築後の新庁舎内にその組合事務室等の設置を要求したものであった。

また、原告は、右二月三日、郵政大臣に対しても、右ア同様の組合結成通知書(博南郵労第一号)及び右ウ同様の団体交渉委員の通知書(博南郵労第四号)を郵送し、これらの文書は同月五日に同大臣に到達した。

3  当時、郵政職員が新たに労働組合を結成し、団体交渉を申し入れる事態はまれなことであった。萩原課長としても、労働組合が新たに結成されたとの通知を受け、団体交渉の申入れ等を受けるのは初めての経験であった。そこで、同課長は原告からの前記申入れ等への対応については上局である九州郵政局と相談してその指示を仰ぐこととし、右申入れ等があった旨を九州郵政局に報告した。九州郵政局では、博多南郵便局から右報告を受けると、早速その対応を郵政省と相談した。その結果、郵政省は、原告が労使関係の対応する当事者である労働組合か否かが不明であるとして、まずこれが明らかとなる原告の組織実態に関する資料を原告から提出を求め、これを得たうえで原告に回答することとし、九州郵便局は、その旨を博多南郵便局長に指示した。

もっとも、その後、原告の組織実態については、九州郵政局でも博多南郵便局から報告を受けて内々で独自に検討を進めたが、これによれば、昭和五六年二月当時の博多南郵便局の職員は二一〇数名であり、その内訳は組合員資格のない管理者が二〇名弱、組合員資格を有する者については全逓所属の者が約九〇名、全郵政所属の者が約一〇〇名、組合未加入者が若干名と把握していたことから、仮に原告に博多南郵便局の職員が加入しているとしてもごく少数と推測した。なお、今永組合長を除く四名の原告組合員は、いずれも原告結成直前、その所属していた全逓を脱退して原告の結成に参加したものであったが、博多南郵便局は、右脱退の事実を捕捉していなかった。

4  右指示を受けて、同月一二日、萩原課長は、高田執行委員に対し、博多南郵便局長に対する団体交渉申入れの件については上局の指示を仰いだが、上局では現在検討中であり、その指示を待っているところなので、翌日に原告と団体交渉を行うことは無理であると伝えるとともに、労使間の交渉等においては労使関係の当事者であることが当然の前提となるが、原告が労使関係の対応する当事者であるか否か不明なのでこれが明らかとなる組合規約、組合員の所属局所及び組合員数を知らせるよう求め、さらに、労使間の出会いの場としては、窓口を通して話をすることはあると思うと述べた。

5  そこで、原告は、博多南郵便局長が原告との団体交渉に応ずるのに必要な最少限度の事項を明らかにすることとし、翌一三日、同局長に対し、「博南郵労第八号(二、三付)等について」と題する文書(博南郵労第一一号)を郵送し、これに「当組合所属組合員は組合長今永公男を除きすべて貴局職員である。組合規約、組合員数を知らせるよう求めているが、団体交渉の席上、合理的理由のある場合には明らかにする。」と記載し、組合員の所属局所のみは明らかにしたものの、組合員の具体的氏名等その他については明らかにしなかった。また、原告は、同文書において、同局長は原告が申し入れた同月一三日一三時からの団体交渉に応じていないとして非難したうえ、同月一七日までに団体交渉のための都合のよい日時を回答するとともに同日までに同局長の交渉委員名簿を提出することを要求し、さらに、同局長が同月一七日までに交渉委員名簿を提出せず、あるいは交渉日時の指定をしない場合は、団体交渉を拒否したものとの認識に立ってしかるべき措置をとる旨を付言し通知した。

6  郵政大臣は、かねてから懸案となっていた特別昇給制度(過去に懲戒処分等の事由により昇給が延伸された者についてその実損を回復するために行う特別昇給制度)の実施を全逓及び全郵政等の労働組合に提案し、その間で団体交渉等の交渉を積み重ねてきたが、右制度に関し、公労委は、昭和五六年一月一七日、郵政省、全逓及び全郵政に対し、仲裁裁定を提示するに至り、その結果右当事者間で近々妥結調印のうえ同年一月一日付けで実施される情勢となった(なお、実際には右当事者間で同年三月五日調印され、その後実施された。)。そこで、原告は、同月一六日、郵政大臣に対して「特別昇給制度に関する団体交渉申入書」(博南郵労第一二号)を郵送し(翌一七日に到達)、これにより同大臣が同年一月一日付けで実施予定の特別昇給制度に関し、原告と同年二月二五日一三時から博多南郵便局において団体交渉を開催するよう申し入れるとともに、既に前記「団体交渉委員の通知」(博南郵労第四号)によって要求した同大臣側の交渉委員名簿を同月二四日までに提出するよう督促した。

7  高田執行委員は、同月一七日、萩原課長に対し、原告が博多南郵便局長に対し同日までに回答を求めた件について質問した。これに対し、萩原課長は、上局である九州郵政局からは何らの指示もないうえ、博多南郵便局長も同月一六日から同月一九日の間公務出張で同局を留守にしているため、回答できない旨を述べ、高田執行委員の了解を得た。その後、萩原課長は、同日中に同局長と連絡を取り、同局長からの同月二〇日に帰局した後できる限り原告と早急に話合いをしたいとの意向を受け、これを翌一八日、高田執行委員に伝え、その了解を得た。

8  博多南郵便局の増改築工事が終了した後、同月二一日及び二二日にかけて仮局舎から新局舎への移転作業が行われ、翌二三日から新局舎で業務が開始された。しかし、新局舎には原告の要求にかかる組合事務室や組合掲示板は設置されなかった。これを知った高田執行委員は、同日、萩原課長と面会し、同課長に対し申入れにかかる団体交渉についての回答と組合事務室及組合掲示板の使用許可に関する検討状況について質問した。これに対し、同課長は、団体交渉の件については上局で検討中であり、その指示を待って正式に回答するが、原告が団体交渉を求めるのであれば、原告と郵政局あるいは郵政省との間で団体交渉のあり方等について話し合ってもらいたいこと、しかし、原告申入れの件については原告と博多南郵便局長との間で事実上の話合いとして行うことがふさわしいものもあり得ると思われるが、その点は上局とも打ち合わせてあるので、別途窓口担当者間で調整しながら行いたいこと、なお、原告が労使関係の対応する当事者であるか否か不明なのでこれが明らかとなる組合規約、組合員の所属局所及び組合員数を知らせるよう求めること、また、組合事務室等の使用許可の問題に関しては、上局と連絡をとりながら検討しているところであり、回答できる段階ではないことなどを述べ、回答を留保した。

また、同日、原告は、博多南郵便局及び九州郵政局に対し、渡辺数利が原告所属の組合員であり、第二集配課に勤務していることを明らかにしたうえ、郵政省が昭和五五年一〇日一日付けで実施した昇格に際し、同人について昇格発令を行わなかった理由等につき質問した。

9  郵政省は、原告から団体交渉委員の指名及び特別昇給制度に関する団体交渉の申入れを受けて、人事局管理課において九州郵政局と連絡をとりながら対応を検討していた。これによれば、同省としては原告が組織実態に関する資料を十分に明らかにしないため原告が対応する労使関係の当事者であるか否かが確認できないとし、直ちに団体交渉に応ずることはできないものの、原告の名称やその団体交渉委員として博多南郵便局の職員が指名されていることなどを考慮して、労使の対応関係が明らかになるまで、原告の申入れ等に一切応じないとの対応は避け、とりあえず話合いをして意思の疎通を図ることとした。そこで、同省は、昭和五六年二月二五日、「申入れの点については、貴組合が対応する労使関係の当事者であるかどうか不明であるが、本省においてこれらの問題も含めて話し合うこととしたい。なお、日程等についての意見等があれば、別途調整をはかることとしたい。」と同省の提案を記載した「博南郵労第一二号(五六、二、一六)について」と題する原告宛文書(以下「郵政省第一二号回答」という。)をファクシミリにより博多南郵便局に送信し、当日午前中に原告に渡すよう指示した。この文書を受信した萩原課長は、同日、高田執行委員が週休だったため、同文書を原告の組合員と推測された長野徹夫及び渡辺数利に手交しようとしたが、窓口担当ではないとして受領を拒否され、その後も種々努力したものの当日中に高田執行委員と連絡をとることもできなかった。このため、結局、同文書は、翌二六日博多南郵便局庶務会計労務担当主事野田武臣(以下「野田主事」という。)から高田執行委員に手交された。その際、高田執行委員は、同文書の内容を確認したうえ、「はい、いいです。」と返答したが、その旨博多南郵便局から報告を受けた同省は、同執行委員は右提案を了解したものであり、原告から同省に対し何らかの意思表示があるものと考え、それを待つこととした。しかし、原告は、前記一連の経過からして、原告に博多南郵便局職員が加入していることは同省にも既に明白なうえ、原告が要求しているのは団体交渉であって話合いではないのに、同省は話合いの提案をするのみで団体交渉には何ら触れず、さらに、今永組合長が執行委員長の地位にある全福郵労に対する同省の姿勢をも合わせ考えると、同省には原告と団体交渉に応ずる意思はなく、右提案は団体交渉を拒否するものであると判断して、翌二七日、本件救済申立てに及んだ。

三  郵政省の労働組合に対する対応

本件命令第2の2、3の事実のうち、当事者間に争いのない事実に《証拠省略》を総合すると、以下の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

本件救済申立て当時、郵政職員の組織する労働組合は、全国的な組織を有するものとして全逓(組合員数約一七万五〇〇〇名)及び全郵政(同約六万名)が、地方の組織として約四二の単独組合(最も組合員数の多いものは全日本外国郵便労働組合で一一八名程度である。)が存在したが、郵政省は、いずれの労働組合に対しても平等に取り扱うことを方針としており、具体的な対応は次のとおりであった。

1  団体交渉関係

本件救済申立て当時、郵政省と労働組合との団体交渉の状況は次のとおりであった。

まず、全逓及び全郵政省との間では、全逓都城郵便局事件の上告審判決(最高裁判所第一小法廷昭和五一年六月三日判決)を受けて団体交渉にかかる諸問題を整理確認したうえ、昭和五三年二月、団体交渉の方式及び手続に関する労働協約を締結し、さらに、期間経過後の昭和五四年一二月二七日、同内容の労働協約を再締結した。また、右当事者間では、同日、支部交渉の対象事項に関する覚書及び服務表の作成・変更についての支部交渉に関する覚書を締結した。以上の同日付け労働協約及び覚書は、昭和五五年二月一日から実施されたが、これによれば郵便局長に権限が委譲されている事項のうち服務表の作成・変更(ただし、右についての支部交渉に関する覚書に定めるものに限る。)等六項目については局所とこれに対応する支部間で団体交渉を行うこととされ、以後これにより団体交渉が行われている。しかし、組合事務室や組合掲示板の使用許可に関する事項については、団体交渉を行っていない。

また、その他の約四二の労働組合との間では、団体交渉に関する労働協約を締結しておらず、このため、団体交渉の形式での交渉は行われていないが、外形上団体交渉と類似した話合いを行い、団体交渉を行うのと同様な実質的効果を上げている。

2  組合事務室及び組合掲示板関係

(一)  使用許可の方針

(1) 郵政省では、庁舎等の適正な管理を行うことを目的として郵政省庁舎管理規程を定めているが、二条一項では郵便局の庁舎等の庁舎管理者を郵便局長と、また、四条では「庁舎管理者は、庁舎等における秩序維持等に支障がないと認める限り、庁舎等の一部をその目的外に使用することを許可することができる。」と規定している。労働組合に郵便局庁舎の一部を組合事務所等として使用することの許可は郵便局長が右規程の定めるところにより行っているのであるが、同省では、右組合事務所等の使用許可については全国的に統一した運用を計ることを方針としており、郵政局において郵便局長を指導監督させている。

(2) 組合事務室の使用許可についての方針は、局舎事情あるいは業務上の支障の有無のほか、組合員数等の労働組合の規模及び組織状況、組合間の均衡等を考慮して許否及び許可する場合の面積等を決定するというものである。このため、郵便局長は、労働組合から郵便局庁舎の一部を組合事務室として使用させるよう要求を受けた場合には、その旨を郵政局に報告し、郵政局において郵便局長から局舎の状況や労働組合の組織状況等とともに意見を聞き、これに管内の状況や当該郵便局の将来の予測などをも総合的に考慮して検討したうえ郵便局長に対する指導監督を行い、これを受けて最終的に郵便局長が許否等を決定するのである。

もっとも、郵政省では、全逓及び全郵政に対しては、その組合員数が多いこと等総合的に考慮して、業務に支障がなく局舎事情の許す限り、原則として一支部につき一組合事務所の使用を許可することとしているが、分会については、所属組合員数が一〇〇名以上の普通局等に対しては使用させるようにとの要求はあるものの、原則として許可していない。

(3) 組合掲示板の使用についての方針は、次のとおりである。すなわち、郵便局長は、掲示物の掲示については、労働組合から掲示物の掲示許可願の提出を受けた場合に、業務及び庁舎等の秩序維持に支障がないと判断した場合に限り必要最小限度の範囲内で掲示場所を特定して一括的な掲示許可をする方法によっており、形式上掲示板の使用を許可する方法によってはいない。もっとも、掲示物の掲示は、具体的には、郵便局長が掲示を許可した場合に組合用掲示板を設置して労働組合に使用させる方法により行われており、このため、郵便局長は、実質的には右許可をする場所、個所数及び設置する掲示板の大きさを決定することになるが、その決定に当たっては庁舎施設の規模、組合員数等の諸般の諸条件をも総合的に勘案している。

(二)  使用許可の状況

(1) 本件救済申立て当時、九州郵政局管内には、全逓及び全郵政の各支部のほか一〇の労働組合があったが、そのうち組合事務室の使用が許可されていたのは、全逓及び全郵政の各支部のほかは全福郵労(組合員約一〇〇名)及び九州郵政研修所労働組合(同約六〇名)のみであった。

博多南郵便局長は、本件救済申立て当時、同局の全逓西南支部及び全郵政博多南郵便局支部に対しては、それぞれ新庁舎三階の一室を組合事務室として使用を許可していた。

(2) 右当時、右一〇の労働組合のうち、掲示板の掲示許可、すなわち組合用掲示板の使用が許されていたのは、全福郵労、福岡中央郵便局労働者労働組合(普通局二局の五名の職員から構成)など七組合であった。なお、全郵政の干隈郵便局分会に所属する同局職員は三名であった。

博多南郵便局長は、同局の全逓西南支部及び全郵政博多南郵便局支部に対しては、組合掲示物の掲示についても場所を特定して許可し、それぞれ組合用掲示板を設置して使用させていた。

四  以上認定した事実に基づいて、以下判断する。

1  団体交渉拒否による不当労働行為の成否

(一)  郵政大臣に対する団体交渉申入れ関係

前記認定事実によれば、原告は、郵政職員を組合員とする労働組合であり、郵政大臣に対し、昭和五六年二月五日交渉委員名簿の提出を要求した後、同月一七日特別昇給制度について団体交渉を申し入れている。してみると、特別昇給制度に関する事項は職員の労働条件に関する事項として団体交渉対象事項であるから、同大臣は、原告の右要求及び申入れに誠実に対応する義務があるというべきである。

そこで、同大臣の対応についてみると、前記認定したとおり、同大臣は、右名簿の提出要求を受けたものの、その時点では原告が団体交渉の相手方となるべき郵政職員の加入する労働組合か否かで不明であったため、この点を含めた原告の組織実態について原告から組合結成通知を受けた後九州郵政局などを通ずるなどしてその把握に努め、その後、原告に対し、同月二五日付け書面で翌二六日原告が対応する労使関係の当事者か否かの問題等について郵政省において話合いをすることを提案したのであるが、当時の状況に照らすと、右対応をもって不誠実で団体交渉を拒否したものと評価し非難することはできない。すなわち、同大臣は、右実態把握の結果、本件救済申立て時点では、原告の組合名及び所在地、博多南郵便局の職員である高田裕和及び長野徹夫が交渉委員に指名されており高田裕和は執行委員として窓口を担当していたこと、原告から組合員は組合長今永公男を除き博多南郵便局職員であること、博多南郵便局職員の渡辺数利については原告の組合員であることを明示のうえ同人の昇格の件につき質問があったことなどの諸事情について把握し、右時点において、同大臣は、原告が郵政職員の加入する労働組合であることについては一応の認識を有していたと推認できるが、当時原告は結成後間がなく、同大臣としては原告の実態について十分に検討する時間的余裕も資料も十分とはいえない時期でもあり、右の諸事情のみによっては原告の実態を正確に認識することのできる状況になかったことも否定できない。また、団体交渉を行うのであれば、その手続きを協議し合意しなければならないが、労使双方の所在地に鑑み、特にこれを行う場所について双方の主張の対立が予想されるなど手続面でも種々詰めなければならないところ、この点の合意は未だなく直ちに団体交渉を開催する手続上の諸条件が整っていない状況でもあった。以上の状況のもとで同大臣は同月二六日原告に話合いを提案したものであるが、その趣旨・目的は、右提案書面の記載及び右状況に照らすと、話合いをもって団体交渉に代えたり話合いを行うことを団体交渉を行う前提条件としたものではなく、不明あるいは疑問な点を正すとともに労使双方の主張や希望を述べることによって同大臣において更に原告の実態を詳細に理解し、また、相互に団体交渉の手続きについての希望等について意見を交換等することにより相互に意思の疎通を図ることにあったものと考えられる。そうすると話合いの内容及びその後の双方の対応如何によっては当局側の交渉委員名簿の提出を経て団体交渉が開催され、これが円滑に実施されることも期待できるのであるから、右話合いの提案は、実質上団体交渉を円滑に行うための一つの過程あるいは事前折衝の提案とも理解できないものでもないのであって、結局同大臣としては原告の要求及び申入れに対し、前記状況において当面考えられるものとしてはそれなりに誠意ある対応をしているものということができる。したがって、本件救済申立て時点において同大臣が原告の要求する交渉委員名簿を提出せず、かつ、申入れに係る団体交渉を行っていなかったことをもって直ちに団体交渉を拒否したものと評価し、非難することはできない。

なお、原告は、公労法上、交渉委員の指名は不可欠であり、指名の前段階として話合いをしなければならないいわれはないなどと主張する。確かに、公労法一一条によれば、団体交渉の手続に関し必要な事項は団体交渉で定めると規定しているのであるが、公労法が交渉委員をして団体交渉を担当させるとしている趣旨は、団体交渉の手続などはいわば交渉の入口で双方の主張が対立し、混乱が生ずるのを避けるためと解される。右のとおり、労使双方の所在地に鑑みると、特に団体交渉を行う場所について、主張が対立する可能性が高く、このような場合には、同大臣としては、双方の主張の対立点や希望を理解するために話合いを提案し、右話合いにより交渉開催地が決定した後に適宜な交渉委員を指名することも許されないわけではないというべきである。原告の右主張は失当である。

(二)  博多南郵便局長に対する団体交渉申入れ関係

(1) 服務表の変更に関する団体交渉拒否関係

服務表の変更に関しては、右認定事実によれば、原告は、博多南郵便局長に対し、昭和五六年二月三日、服務表の変更について団体交渉を申し入れたが、同局長は本件救済申立てまでの間、原告と団体交渉を行わなかったのである。しかし、同局長は郵政大臣から交渉事項につき交渉委員の指名を受けずに団体交渉を行うことのできる法的根拠はないのであり、これは同局長が郵政大臣から権限を委任され、権限を有する場合においても同様であるうえ、また、右指名を受けたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、同局長は原告と団体交渉を行う立場にあったということはできないのであるから、同局長が原告と団体交渉を行わなかったことをもって直ちに不当労働行為として非難することはできない。もっとも、服務表の変更は郵政職員の勤務条件に関する団体交渉事項であり、また、前記認定事実によれば、服務表の変更について、国は全逓及び全郵政との間では郵政大臣において博多南郵便局長を交渉委員に指名し同局長においてそれぞれの支部との間で団体交渉を行っていること、原告は博多南郵便局の職員らにより組織される労働組合であって同局長は右職員の直属の上司に当たるうえ、博多南郵便局の服務表の変更は同局長に委任された労働条件に関する事項であるということができる。そうであるからこそ、前記認定のとおり、同局長は原告から昭和五六年二月三日組合結成通知とともに右団体交渉の申入れを受けると、その旨を上局である九州郵政局に報告し、対応につき検討を依頼して指示を仰ぐこととし、萩原課長において高田執行委員に対し、団体交渉の件に関しては、九州郵政局で検討中であり、その指示を待って回答する旨を伝えたほか直ちに団体交渉を行うことはできないことを説明したうえ、事実上の話合いであれば行う用意のあることを伝え、そのころ、組合活動の件に関しては、九州郵政局と相談中であり、その指示を待っている段階であると説明し、また、九州郵政局は博多南郵便局長から右検討の依頼を受けた後、郵政省とも相談して原告の組織実態の把握に努めながら検討を進めた(ただし、前記のとおり、原告の組織実態については相当程度推認はできても十分には把握できなかった。)のであり、このような状況の中で郵政省は昭和五六年二月二六日、前記のような趣旨、目的及び意義を有する話合いを提案し、右話合いの提案に対する原告の回答を得たうえで更に検討を重ね、その結果を踏まえて適宜対応しようとしていたものと解される。してみると、同局長はもちろん郵政省あるいは郵政大臣も当面考えられる適当な措置あるいは誠実な対応を行っているというべきであるから、本件救済申立ての時点においては、当局が正当な理由がなく原告が申し入れた服務表の変更に関する団体交渉を拒否したものと評価し、非難することもできない。

(2) 組合活動に関する団体交渉拒否関係

組合活動に関しては、前記認定事実によれば、原告は、博多南郵便局長に対し、昭和五六年二月三日、組合活動について団体交渉を申入れ、組合活動の内容として組合事務室及び組合掲示板の使用許可を含めて考えていたが、これに対し同局長は、本件救済申立てまでの間、原告と団体交渉を行わなかったのである。しかし、前記のとおり、同局長は郵政大臣から交渉事項につき交渉委員の指名を受けずに団体交渉を行うことのできる法的根拠はなく、また、右指名を受けたことを認めるに足りる証拠もないうえ、組合事務室及び組合掲示板の使用許可に関する事項は公労法八条四号の労働条件に関する事項ではないから、同局長が原告と団体交渉を行わないことに非難すべきところはなく、したがって、団体交渉を拒否することにより不当労働行為を行ったということはできない。

(3) 交渉委員名簿の不提出関係

交渉委員名簿に関しては、前記認定事実によれば、原告は、博多南郵便局長に対し、昭和五六年二月三日、交渉委員名簿の提出を要求したのに対し、同局長は本件救済申立てまでの間、原告にこれを提出しなかったのである。しかし、同局長は郵政大臣から交渉事項につき交渉委員の指名を受けずに団体交渉を行うことのできる法的根拠はないのであり、また、右指名を受けたことを認めるに足りる証拠もないことは既に述べたとおりである。そうすると、同局長が交渉委員名簿を提出しなかったことをもって団体交渉を拒否する不当労働行為を行ったということはできない。

以上のとおり、本件救済申立ての時点においては、団体交渉等を拒否する行為は認め難いのであって、これを前提に不当労働行為をいう原告の主張はいずれも失当である。

2  支配介入行為による不当労働行為の成否

(一)  団体交渉を行わないことによる組合間差別関係

(1) 郵政大臣に対する団体交渉申入れ関係

前記認定事実によれば、国は郵政大臣において全逓及び全郵政との間では特別昇給制度に関し交渉委員を指名して団体交渉を行っていたにもかかわらず、原告との間では、本件救済申立てまでの間、その要求に係る交渉委員名簿の提出をせず、かつ、申入れに係る特別昇給制度についての団体交渉を行わなかったのである。

ところで、団体交渉を行うに当たってはその開催場所手続について合意することが必要であるが、前記認定のとおり、国は全逓及び全郵政とは団体交渉の手続等に関して労働協約を締結し、特別昇給制度についての団体交渉も右労働協約に則って行っているのに対し、原告とは未だ右のような労働協約を締結していない状況にあり、また、原告の右要求及び申入れの状況に応じて同大臣は原告に対し前記のような趣旨、目的及び意義を有する話合いを提案し、相互に意思の疎通を図るよう努めていたのである。そうすると、同大臣は原告の要求及び申入れに対し、右状況のもとで当面考えられるものとしてはそれなりに誠意をもって対応しているものと認められる。したがって、本件救済申立て時点において同大臣が原告に交渉委員名簿を提出せず、かつ、その間で申入れに係る団体交渉を行っていなかったことには合理的な理由があるということができ、国が原告を全逓及び全郵政と差別し支配介入による不当労働行為を行ったとは認め難い。

(2) 博多南郵便局長に対する団体交渉申入れ関係

服務表の変更に関しては、前記認定事実によれば、博多南郵便局長は全逓西南支部及び全郵政博多南郵便局支部との間では団体交渉を行っているのに対し、原告との関係では、昭和五六年二月三日、交渉委員名簿の提出要求とともに団体交渉の申入れを受けながら、本件救済申立てまでの間、いずれをも行わなかったのである。

ところで、博多南郵便局長は郵政大臣から交渉事項について交渉委員の指名を受けずに団体交渉を行うことはできないところ、同局長は同大臣から全逓及び全郵政との関係では国がその間に締結した団体交渉の手続等に関する労働協約に則って交渉委員の指名を受けていたのに対し、原告との関係では右のような労働協約は締結されておらず、また、同局長が同大臣から交渉委員の指名を受けたことを認めるに足りる証拠のないことは前記のとおりである。したがって、同局長が原告に対し、交渉委員名簿を提出せず、かつ、申入れに係る団体交渉を行わなかったことにも合理的理由があるということができ、直ちに国が原告を全逓及び全郵政と差別し支配介入による不当労働行為を行ったと評価し、非難することはできない。もっとも、前記認定事実によれば、服務表の変更について、国は全逓および全郵政との間では郵政大臣において博多南郵便局長を交渉委員に指名し同局長において各支部との間で団体交渉を行っていること、原告は博多南郵便局の職員らにより組織される労働組合であって右職員の直属の上司に当たるうえ、博多南郵便局の服務表の変更は同局長に委任された労働条件に関する事項であるが、前記のとおり、同局長及び同大臣は原告に対し適当な措置あるいは誠実な対応を行っているというべきであるから、結局本件救済申立ての時点においては、博多南郵便局長が服務表に関する団体交渉について原告を全逓及び全郵政と取扱いを異にしたことには合理的理由があるということができ、原告を全逓及び全郵政と差別する支配介入の不当労働行為を行ったとは認め難い。

(二)  博多南郵便局長の組合事務室等の使用許可拒否関係

前記認定事実によれば、博多南郵便局長は、郵政省庁舎管理規程により郵便局庁舎等の一部を組合事務所等として使用を許可する権限を有し、博多南郵便局職員により構成されている全逓西南支部及び全郵政博多南郵便局支部に対しては、それぞれ新局舎三階に相応の面積を有する各一室を組合事務室として、また、新局舎内に組合掲示板を設置して使用を許可していた(なお、電話の設置許可をしていたことを認めるに足りる証拠はない。)が、原告に対しては、昭和五六年二月三日に要求を受けたものの、本件救済申立てまでの間、これの使用を許可していないのである。

ところで、組合事務室及び組合掲示板の使用については、前記認定事実によれば、博多南郵便局長は、原告から右使用許可の要求を受けると直ちに上局である九州郵政局と相談してその指示を仰ぐこととし、さらに、報告を受けた郵政省において検討することとし、郵政省は、まず原告の組織実態や活動状況を把握することに努めたが、時間的余裕も資料も十分とはいえない状況にあって満足な把握検討を果たせず、このため原告の右要求について具体的に検討するに至らず、そこで郵政省は原告に対し前記の趣旨・目的で話合いを提案し、右提案によって、原告は、郵政省に対しその不明あるいは疑問な点を質すとともにその組合活動に関する要求や希望を具体的に述べ、郵政省と事実上交渉する機会が与えられたにもかかわらず、右提案に対し何らの対応もしなかったのである。そうすると、本件救済申立て時点では、郵政省としては原告の右要求について十分な検討をすることができない状況にあったと推認され、しかもその原因の一端は原告にもあるというべきであるから、右時点において博多南郵便局長が原告に組合事務室等の使用につき許否及び許可する場合の場所・面積等の決定をしていないとしても合理性を欠くものではない。

また、電話の設置については、そもそも、原告は、組合事務室が使用許可された場合に同室内に電話を設置することの許可を要求しているものであるところ、右のとおり組合事務室の使用を許可していないことについては合理的な理由があるのであるから、電話の設置を許可していないからといって不当ということはできない。

なお、原告は、全逓西南支部及び全郵政博多南郵便局支部は法人格を有せず、独自の規約すらも持たないのに対し、原告は公労委規則二二条に基づく組合資格証明書の交付を受けた法人格を有する労働組合であるから、博多南郵便局長は原告にこそ組合事務室等の使用許可等をすべきなのに、そうしないのは原告を右各支部と不当に差別するものである旨主張するが、右許否の判断に当たり法人格の有無を基準とすることには合理的な理由がないから、原告の右主張は失当である。

そうすると、博多南郵便局長が組合事務所の使用許可について原告と全逓及び全郵政と扱いを異にしたことには合理性があり、原告を全逓及び全郵政と差別し原告の活動力を低下させ弱体化を図ろうとの意図を推認することはできない。

五  よって、本件命令の取消しを求める原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用(参加によって生じた分を含む。)の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石悦穂 裁判官林豊及び同納谷肇は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 白石悦穂)

〈以下省略〉

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